研究内容

キーワード:脳神経科学,ニューラルネットワーク,計算機シミュレーション,産業界の相談に対応できる技術分野,認知科学,心理学,情報科学

 

 認知科学分野の研究は、最近の実験技術の向上(例えば、単一細胞の活動記録やfMRI技術など)により大いに進歩し、様々な脳機能(例えば、視覚、嗅覚、聴覚等の感覚処理や学習・記憶処理など)に関する神経科学的データが、精度良く得られるようになってきた。脳機能の解明に向けての重要な研究として、引き続き行うべきことは、これら得られたデータの解釈である。即ち、それらの神経活動が意味するものは何であり、それが特定の脳機能にどう寄与するかの神経メカニズムを理解することである。脳神経機構の観点から人間の認知・認識機能解明をめざす研究手法のひとつとして、計算機シミュレーションによる理論的研究がある。脳の解剖学的構造に基づき、神経回路網を構成し様々な情報処理(学習・記憶・認知・認識など)を行わせながら、その際の個別神経活動の解析および回路網全体としての力学系解析により、その脳機能を明らかにしていこうとするものである。我々は、脳内情報処理の基本的ユニットとして、そのような皮質マップがどのように組織され、機能するのかについて長年研究を行ってきた。
 本研究では、多様な脳機能のうち特に脳内化学物質のGABAが神経細胞外に存在し神経ネットワーク系の全体的活動を抑制することの意義を,特に大脳皮質での感覚情報に的をしぼり調べることである.大脳皮質系の解剖学的、生理学的および機能学的事実を調査しながら、実際の脳に立脚したニューラルネットワークモデルの構築を目指す。様々な刺激下でシミュレーションを行い、ネットワークの最適パフォーマンスを与える(ニューロン)パラメータの探索を行う。その後,個々の神経活動採取・解析し、モデルの信頼性を検証する。計算機シミュレーションでは,様々な感覚刺激を与えながら神経活動を記録した後,統計的手法により神経情報処理の基本メカニズムを探る。本研究により,シナプス外GABAによる大域的脳神経細胞活動の抑制的修飾がもたらす感覚情報処理への効果が指摘できる可能性が期待できる.このことは化学物質と脳内情報処理のかかわりを理解する上で極めて重要であると考えている.

 

2008年度博士前期課程修了 中村 悠人

「Lateral Excitation between Dissimilar Orientation Columns for Ongoing Subthreshold Membrane Oscillations in Primary Visual Cortex」

 

 

・Abstract

  第一次視覚野(V1)には,線分の傾きに選択的に応答(発火)するニューロンが存在する.これらのニューロンは近隣にある同じ傾きに応答するニューロンと組織化し,”傾きコラム”を形成する.コーナーなどの,線分を組み合わせた形状を認知する際は,それぞれの線分の傾きをV1で検知し,その情報を第二次視覚野(V2)に送り,V2でそれぞれの線分の情報が統合されコーナーを検知する.最近の研究によれば,コーナーを検知する際に,V1のそれぞれの傾きに応答するニューロン間で相関活動がみられることが明らかになった.本研究の目的は,このV1における相関活動の役割を解明することである.相関活動は”側興奮”によるものと仮定する.側興奮とは,異なる傾きに応答するニューロン同士の活動を互いに活性化させる機能である.本研究では,計算機上にV1のニューラルネットワークモデルを構築し,側興奮の有無によるネットワークの挙動を比較する事で,V1における相関活動の役割の解明を試みた.その役割の1つは,情報の統合である.相関活動によってそれぞれの線分の傾きの情報をV1で補助的に統合することで,V2へコーナーの情報をより効率的に送信することができるからである.もう1つの役割は,応答速度の加速である.側興奮は,背景活動期間のV1のニューロンを発火閾値以下で脱分極させる.これにより,刺激に対するニューロンの応答速度が加速され,V1は,V2へより素早く情報を送信することが可能になる.また脳内には”側抑制”という機能も存在し,これは異なる傾きに応答するニューロンの活動を抑制させる.側興奮と側抑制は反対の機能であり,これらは同時に脳内に存在する.興奮と抑制の最適なバランスは,V1が刺激に対して素早く応答できる状態を作る.脳はこのバランスを調節し,効果的にコーナーの情報を処理していると考えられる.。

 

・研究背景

 

 

・モデル

 

Designed by CSS.Design Sample

inserted by FC2 system